大判例

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福岡高等裁判所 昭和29年(う)1035号・昭29年(う)1034号 判決

案ずるに、明治二十二年十二月三十日法律第三十四号決闘罪に関する件第一条にいわゆる決闘を挑みたる罪は、日時、場所等を協定して相互に生命身体を傷害すべき暴行を以て闘争をすることについて、相手方の同意を要求する意思表示の相手方の認識に到達することによつて成立するものであり又同条にいわゆる決闘の挑みに応じたる罪は決闘の挑みをうけた相手方のしたその挑みに応ずる承諾の意思表示が、決闘を挑んだ者の認識に到達することにより成立するものであつて、当事者双方が必らずしも殺傷の用に供する武器等を準備した上、該意思表示をなすことを要するものではないと解するのが相当である。

ところで、原判示第一、第二の事実を挙示の証拠と対照してみると、(一)被告人富久春記は判示日時頃判示稲員厚方横の空地で仮設興行中の映画見物に赴き、そこで小屋廻りをしていた同興行主の相被告人久保田正行と判示のような経緯から喧嘩を始め、両手に持つた高下駄で同人の頭部顔面などを数回殴りつけ(よつて判示のとおりの傷害を与え)るうち、右久保田正行は「お前は武器を持つてやるのか、ひきようだ、待つてくれ」と言つて起き上り、「お前はやるだけの腹はあるのか」と怒気を含んで聞き糺すと、被告人富久春記が「最後までやろう」と積極的に出たので、一寸来いといつてそこから西方に約一丁位離れた人通りのない処に行き、道路端に腰を降ろして二人は、それぞれたばこを手にしながら話を続け、被告人久保田正行は「俺は素手で殴つたのにお前は何故下駄で殴つたのか」と詰問した後、一度は「未だ見れば二十年そこそこの若い者のようだが、こんな不良じみたことをしてどうするか」と論じてもみたが、被告人富久春記が「俺は若くはない、二十五だぞ喧嘩はどこに行つても後には退かん、お前のことも知つての上のことだ」と反撥したので、被告人久保田正行も憤慨して「お前はどうでも最後までやる気か、俺も興行師だからお前達のような若僧に顔を傷つけられてはこのまま引き込まれない。俺も持つて来るからお前も好きな武器を持つて来い。一騎打しようじやないか、映画が終つた頃、此処に来い」と武器の種類は各自任意として時間、場所を指定しそこで果し合いをしようと申し向けたところ、被告人富久春記は「よし約束した」と、これを承諾して元気にそこを立ち去つた事実、(二)それから被告人富久春記は直ちに自宅に帰り箪笥にしまつていた自己所有の判示ひ首(刄渡り十三・六糎一本を取り出し対決に備えてこれをズボンのポケツトに入れ、十数分後に再び前記仮設映画場裏に引き返えしてきて「来たぞ」と声をかけひ首を示して決闘を促したのでそこにいた被告人久保田正行は「持つてきたか、映画でも見て一寸待つておれ」といい、急遽、同映画興行の木戸番をしていた原審相被告人富田直行をして判示熊添茂市から借り受けさせてきた判示白鞘の日本刀(刄渡り七十三糎)一本を受け取るや、判示稲員方附近の道路上に待つていた被告人富久春記に向かい、二、三間離れた所から「さあ用意ができたぞ」と叫び、右日本刀の鞘を払つて身構えた事実、(三)ところが、被告人富久春記は「ここでするか」と答えたものの、右久保田正行の仕度を待つうち、前記喧嘩の報をうけて馳けつけてきた父親民蔵からその乱行を諫められた直後のことでもあり、居合わせた人々に制止されたため急に意気くじけて対峙応闘しなかつたので、被告人久保田正行も闘志を失つたが、この機会に懲らしめておこうと考え後退する被告人富久春記の近くに進みより「しつかりせんか、先刻の元気はどうしたか」「相当人に知られた兄ちやん、どうしたか」等といいながら右日本刀の峯で三回位同被告人の頭部を殴打し、よつて治療一週間を要する判示左頭部創傷を与えた事実が明らかである。

この事実によると、被告人久保田正行が前記(一)のとおり直接被告人富久春記に対し、日時場所を定め武器は各自任意なものを持つて一騎打をしようじやないかといつて決闘をすることにつき、同被告人の同意を要求する意思表示をしたときに、被告人久保田正行につき決闘を挑みたる罪は成立し、又被告人富久春記がその趣旨を諒承し、「よし約束した」と答えて直接被告人久保田正行に対し、同人のした決闘の挑みに応ずる承諾の意思表示をしたときに、被告人富久春記につき、決闘の挑みに応じた罪の成立することは前段説明したところにより極めて明白であるから、原判決が認定した判示(二)の事実中、前記(一)の後段と同趣旨の事実に基き被告人久保田正行を、前掲決闘に関する件第一条所定の決闘を挑みたる罪、同富久春記を同決闘の挑みに応じた罪にそれぞれ問擬処断したのは正当であるといわねばならぬ。そして証拠のうち判示にそわない部分は原審の措信しなかつたものと解すべきで、その措置が合理性に反する点も見出し難く、記録を調べても原審のした右事実の認定が誤だということもできない。

論旨は被告人富久春記の所為は決闘をする意思がないから犯罪は成立しないというけれども、そもそも決闘とは当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行を以て争闘する行為を汎称するものであるところ、被告人富久春記は前記(一)(二)で認定したとおり同久保田正行が日時場所を指定し双方任意な武器を持ち一騎打をしようじやないかといつて争闘することの同意を求めたのに対して、直ちにこれを承諾し自宅からひ首を持ち出し同被告人のところに引き返えし「来たぞ」と言つて同人にそのひ首を示し争闘を促した事実に徴しても被告人富久春記が右久保田正行に対し争闘することの同意をした際、真実、同人と決闘をする意思を有していたことが明らかであるから所論のように被告人富久春記に決闘をする意思がなかつたということは到底できない。

又、論旨は被告人富久春記の所為は、相被告人久保田正行が日本刀を持つて挑戦したとき応じなかつたのであるから本罪の構成要件を欠き犯罪は成立しないというけれども、決闘の挑みに応じた罪は、その挑みをうけた者のした挑みに応ずる承諾の意思表示が、挑んだ者の認識に到達したことだけで直ちに成立するものであることは、既に前掲説示したとおりであり、被告人富久春記について同罪の成立することの証拠上認定できることも既に説明したとおりであつて、同被告人が所論のとおり日本刀を構えて挑戦した久保田正行に応闘しなかつたことは前掲(三)で認定したとおりではあるが、そのことは既に成立した同罪に何等の消長を及ぼすものではない。所論は、恰も決闘の挑みに応じた者が武器をとり決闘を挑んだ者と相対峙して相互に争闘行為を開始しなければ、決闘の挑みに応じた罪は成立しないかのような見解であるが、それは前掲決闘に関する件第二条に「決闘を行いたる者」に対する処罰規定の存することを看過し、本罪を規定した同第一条が、現実に決闘を惹起する危険性のある行為に対する処罰規定であることを理解しないことに基く謬論であつて首肯するに由ない。論旨は理由がない。(中略)

つぎに職権で調べると、原判決は、被告人富久春記に対し、傷害、決闘の応挑、ひ首(刄渡り十五糎未満)の不法携帯の事実及び同久保田正行に対し、決闘の挑発、日本刀(刄渡り十五糎以上)の不法所持、傷害の事実をそれぞれ認定しその法律の適用として各被告人に対し、刑法第二百四条(懲役刑選択)、決闘罪に関する件(法律)第一条、刑法施行法第二条、銃砲刀剣類等所持取締令第十五条、第二十七条(懲役刑選択)(但し、被告人久保田正行については、同令第二条第二十六条(懲役刑選択))、罰金等臨時措置法第二条第一項、第四条第一項と摘示して併合罪として処断した上、主文において被告人両名を「各懲役六月及罰金二千円」に処しているが、右のとおり各被告人の罪のうち、傷害罪、銃砲刀剣類等の不法所持罪につきいずれも懲役刑を選択しているところからみると、主文において言い渡した右罰金刑は決闘に関する件第一条(罰金等臨時措置法第二条第一項、第四条第一項)の規定に基き、附加されたものであることが看取される。しかし、決闘罪に関する件第一条に規定された罰金の附加刑は、刑法施行法第十九条第二項の「他の法律の規定中………附加の罰金に処す可き旨を定めたるものは之を廃止す」との規定により現行刑法施行後、既に廃止されていることが明らかであるから、原審が右刑法施行法第十九条第二項の規定を看過して各被告人の本件決闘に関する罪につき、同第一条の規定をそのまま適用して被告人等に対し前記のとおり罰金の附加刑を言渡したのは法令の適用を誤つたもので、その誤の判決に影響を及ぼすことも論ないので、原判決中、被告人両名に関する部分は刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十条に則り破棄を免かれない。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 大曲壮次郎)

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